全国大会の常連校であり、表現力豊かな演奏と躍動感のあるステージパフォーマンスで多くの吹奏楽ファンを魅了している松戸市立第四中学校。顧問である須藤卓眞先生に、第2弾(M39-S)の詳しい内容や初心者の上手な導き方、そして生徒主体の練習・部活動の運営方法について、じっくりとお聞きした。
音を合わせる感覚やブレンド感を意識して
日々の基礎練習を行うことが大事
――第2弾では「新バンドでの吹奏楽指導」をテーマに、第1弾(M21-S)で取り上げられなかったパート練習と基礎合奏の応用編、ステージパフォーマンスのノウハウなどが盛り込まれた内容になっています。

――パート練習では、上級生が下級生の演奏を丁寧にサポートしてあげていたのがとても印象的でした。
新体制では、やはり学年ごとの個人差や技術の差が課題となってきます。今回はそれを克服するための練習を多く紹介させていただきました。例えば、1対1、複数対複数で交互に吹くことによって、同じ吹き方をする、同じ音を出す、同じ息を使うことを意識して吹くことができますよね。合奏の中ではなかなかそういう練習ができないので、パート練習ではいつも多く取り入れています。――第2巻に収録されているグループを分けて行う基礎合奏も、こういう練習方法があるのかと、見ていてとても新鮮で興味深かったです。

――新バンドでは、どんな点に気をつけて楽曲を選べばいいのでしょうか?

見て楽しむステージパフォーマンスは
人間関係や演奏にもメリットがいっぱい
――松戸四中の十八番であるステージパフォーマンスが見られる点も魅力の一つですよね。
パフォーマンスについては、ポップスの曲を多く取り入れているのですが、その中でも今回は「ボカロ・ヒット・メドレー」を演奏させていただきました。パフォーマンスは曲を聴くだけではなくて、見て楽しむ要素が非常に大きいので取り入れています。でもただ動けばいい、スタンドプレイをやればいいというわけではなく、こだわりを持ってパフォーマンスをしています。
――こういったパフォーマンスは、演奏面でどのように生きてくるのでしょうか?

初心者指導のカギは『目標設定』
生徒たちは経験した分だけ進歩する
――新体制では、新入生をどう育てていくかも重要なポイントですよね。

――千葉県内のお祭りやイベントにも積極的に出演されていますが、そういった活動は毎年何回くらい行っているんですか?
2013年は年間30回以上はやりました。全日本吹奏楽コンクールでは、三出明け(三出制度=全国大会に3年連続で出場した団体は翌年は地区大会、県大会の予選から出場できない)でコンクール初体験の生徒ばかりだったのですが、その状況で金賞を獲れたのは、そういった演奏活動の経験が大きかったですね。場数を踏むことでメンタルが鍛えられて、全国大会の本番でも緊張しないで演奏ができました。経験が生徒たちの力を伸ばしてくれたんだと思います。――楽器を決める際はどんなアプローチを取っていますか?
生徒から希望は取りますが、希望通りにすると偏った編成になってしまうので、そこをどう上手く決めるかですよね。まずはすべての楽器を吹かせてみて、口の形やくわえ方、歯並び、体格など色々なこと加味して決めていくのですが、その時に必ず将来リーダーになるような生徒を各パートに配置するようにしています。吹奏楽は色々な楽器で構成されているので、当然人気のない楽器もあるんですよ。そこをどうやる気にさせるかが指導者の話術なわけです(笑)。そこで指導者側からの「君だから任せるんだよ」という一言があるとないとでは、その後のモチベーションは全然違ってきますね。――そういう声かけは大事ですよね。
その代わり練習中に褒めることはほとんどないですね。これは生徒たちにも言っています。僕自身の中で褒めるというのはそこまでになってしまうよね、そこでOKになってしまうよね、と。まだまだもっとできるというのが音楽の場合あるわけですから、褒めたくても褒めないように気をつけています。あとは子どもとの関わりですね。100人以上の大人数ですから、本当に一人一人関われるかと言ったら関われていないんですよ。ただ子どもたちはこっちを見ている部分あるので、いつも本音で全体に対して関わっています。
顧問・指導者・指揮者として大事なのは
『どういうサウンドを作りたいか』を伝えること

――精力的に講演や合同練習を行われていますが、そこではどんな質問を受けることが多いですか?
DVDを出してから講演に呼んでいただく機会も増えたのですが、初めて顧問になられた先生や若い先生方は何も分からない状態からのスタートなので、本当に苦しまれているんですよ。楽器はどう決めているのか、リードはどんなものを選んだらいいのかという質問から、初心者へどうアプローチすればいいのか、生徒のやる気を引き出す術、保護者との付き合い方など、熱心に質問をぶつけてこられます。特に部活動運営の方法や生徒指導面に関心のある先生方が多いですね。――限られた時間の中で、演奏面での舵取りと生活指導を同時にこなさなければいけないわけですからね。
部活動以外に学校の仕事もありますから、いつも練習を見られるわけではないですし、先生が全部できるものでもないんですよ。そこでどうしようかともがいている方がたくさんいらっしゃるのですが、先生がすべてやろうとするから苦しいのであって、そこを思い切って生徒に任せることが大事ですね。上級生と下級生のつながりやシステムができていれば、放っておいても生徒は自分たちの力で成長していくものだと思うんです。――松戸四中ではパート練習や基礎合奏をすべて生徒だけで行っていますが、任せてすぐにできるものなのでしょうか?
生徒主体の練習を高校では普通にやっているのに、なぜ中学ではやっていないのかを考えた時に、やはりそれは指導者側が中学生には難しいと思っているからなんですよ。僕の場合はそこを『任せればできるんじゃないか』と始めたことがきっかけです。やはり、まずは生徒の力を信じてあげることですね。合同練習でいらっしゃった先生方にも、なぜ生徒だけで成長できるのかと良く聞かれるのですが、やらせればできるんです。もちろんそのためには『何が大事か』『何をやればいいのか』を生徒自身が理解していることが重要です。そこが分かっていれば段々と形になってきますし、ある程度のレベルに持っていくことができるわけです。――それには生徒同士の団結力が必要不可欠だと思うのですが、バンド内のまとまりを生み出す秘訣は?
うちは生徒の仲の良さが自慢なんですが、それは同じ学年だけではなくて上級生が下級生を責任持って教えていく“縦のつながり”がしっかりしているからだと思います。例えば新体制に変わる前に、新しい部長や副部長、セクションリーダーを決めるのは3年生の仕事なんですよ。自分たちで決めたことだからと、10月から11月の引退まで1ヶ月間、必死になって教えるわけです。引退後も何か問題があった時は「どうなっているの?」と3年生を呼び出すこともあります(笑)。そうすることで、毎年しっかりと技術も伝統も引き継がれていますね。――指導者が気をつけなければいけない部分はどの辺りでしょうか?

『使命感』を生み出す係活動
お客様をもてなす接客係が自慢
――松戸四中では部の組織を演奏部、運営部、管理部の三つに分けて、その中にも様々な係がありますが、現在のような形になったのはいつ頃からなのでしょうか?
松戸四中に赴任した当初はほとんど係というものがなく、部として機能していないところがあって、その当時に自分たちに何が必要なのかを考えさせました。活動の中でこういう係が必要だ、こういう係があったら活動しやすくなると思う係を子どもたちが考えて、係を決めていったんですね。そこから4年経った今もどんどん係は増え続けています。というのは、活動していく上で何か新しいものを買ったらこれを管理する係も必要だねという形で、どんどん係が増えていくんですよ。今どれだけの係があるのか、私自身も把握できていない部分があるのですが、係が機能することによってスムーズに運営もできています。
――DVDの中で生徒たちにもインタビューをさせていただきましたが、部の一員としてやりがいを持って係をこなしている様子に充実感が滲みでていました。
子どもたちの中にも『係をきちんと果たすことが部全体のためになる』という使命感があって、本当にたいしたことのない小さな係でも一生懸命やるんですよ。何かを準備する係でも、持ってきてと伝えるだけで、すばやく走って準備していく。それは子どもたちの中でも『自分が役に立つんだ』という想いが強いからなんですよね。そういうふうに全体が思えるようになれば、係活動もスムーズにいくんじゃないかと思います。――打ち合わせや撮影の時も、接待係の生徒たちが丁寧にお茶やお菓子を出してくれました。
合同練習をすることが多いので、学校に来てくださった先生方に『来て良かったな』と思ってもらえるように、心を込めておもてなしするのが接待係の役目なんです。見学に来られた先生方も一番関心を持たれるのが、この接待係なんですよ(笑)。先生方と接する機会が多いので、条件でいえば会話が出来る子かな。うちの生徒たちは自分がどうすれば効果が出るか、部にとってプラスになるかを考えながら、使命感を持って仕事をしている子が多いですね。――最後に、須藤先生が指導をする上で一番大事にしていることは何ですか?
生徒たちにいつも言っているのは『人とのつながりや関わりを大事にしなさい』ということ。部活の仲間だけではなくて、学校の学級の仲間、自分のそばにいる友達をいつも大事にしなければいけないし、吹奏楽部でもモットーにしているので、目に見えないうちに信頼関係もできてくるんです。僕が本音でやっている、言っていることが通じている、感じているからこそ、生徒たちと関わっていなくても、こちらの意図が分かっていたりする。そういう部分が子どもたちの中にはありますよね。クラスや家に帰ってからよりも、部活の方が時間的には長いんですよ。だから僕自身にもそうですが、子どもたちにとってもお互いを『特別な存在』として見ているような気がします。
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須藤卓眞(すどうたくま)氏
“生徒自身が練習の狙いや本質に気づき理解をした上で主体的に取り組む”指導がモットー。千葉県の三つの中学校を8回も全国大会へ導いている中学吹奏楽界トップレベルの指導者。そのうち、前任校の柏市立酒井根中学校では3年連続で全日本吹奏楽コンクール金賞、松戸市立第四中学校では金賞を3回受賞。指導者の育成にも力を注ぎ、豊かな経験を生かして、他校との合同練習や講習会を多数行っている。