コンクールの舞台でも常に笑顔で演奏している姿が印象的な旭川商業吹奏楽部。顧問である佐藤淳先生に、日々の活動や魅力あるバンドづくりについて伺った。
― 普段は夜遅くまで練習されているのですか?
いえいえ、平日の練習は15:40~17:50までの2時間です。トレーニング・ソルフェージュに約20分程度使いますから、実際に楽器を吹いているのは1時間50分くらいでしょうか。リーダーたちは練習が足りていないことはわかっていますから、練習中に歩いているものは誰もいません。短い時間を本気で集中できなければ、長時間の練習に時間を伸ばしたとしてもそんなに効果はありません。居残り練習は本当にやりたいと思うまで許可しません。遊びの時間に早変わり、なんて経験誰にでもありますよね。保護者との信頼関係もなくなってしまいます。しかしこれはあくまで旭商のやり方ですので、各学校の事情に合わせた練習メニューを考えていかなければいけません。私たちも日々練習のありかたについて考えています。答えはありませんが、考えていくことが部活動なのです。不平不満は誰にでもあると思います。だた、何もしない人、考えない人ほど人のせいにして不平不満を言うのは全国どこでも同じでしょうね。
― 教則本を選ぶポイントはありますか?
いろいろなアプローチがあると思いますが、極端に言えば「何でもいい!」と思います。市販されているものはどれも素晴らしいです。どんな教則本でも“何のために、どう使うか”をしっかり考えて練習すれば効果はありますし、その逆もしかり。
といってもバンドの事情によって効果が出やすいものとそうでないものがあるのは事実です。バンドに合ったレベルの教則本を探すといいと思います。
― チームワーク抜群!という印象ですが、何か秘訣はあるのでしょうか?
旭川商業吹奏楽部では、ことあるごとにミーティング(以下MT)をします。MTは他人の意見を聞いたり、自分の意見を知ってもらう絶好のチャンスです。人任せにせず自分の意見をぶつけてください。
注意すべき点は、つまらない多数決による物事の決定を極力避けるということです。MTは結論を出すためのものはありません。価値観は人それぞれであることや心の強い人や弱い人が共存していることを知り、お互いに理解しあい歩み寄り、尊重しなければいけないことを学ぶ場であるのです。
部活動はやる気のある人ない人、コンクールで頑張りたい人そうでない人、いろいろな人がいます。いろいろないざこざが起きます。起きるのが当然です。部活動を辞めたくなる人もいるでしょう。それを乗り越えていけるかどうかが、演奏を含めたバンドの真の実力なのだと思います。
人を知るためにぜひMTを活用してください。
― ズバリ、魅力ある吹奏楽部づくりのためにどんなことを大切にしていらっしゃいますか?
そうですね。魅力ある吹奏楽部≠ニはどんなものか!? というところから、ひとつひとつの物事を真剣に考えることを大切にしています。「ありがとうございました」、「よろしくお願いします」といった日常的に口にする言葉の意味や、一見些細に見える物事の本質を本気で考えること。なぜ、ロングトーンを練習するのか?なぜ定期演奏会を開催するのか、究極にはなぜ部活動をやるのかなど、「何故」、「どうして」を音楽面はもちろん、活動面からも考えることをすごく大事にしています。
― 上手なバンドになるための極意はありますか?
これだ!という絶対的なものではありませんが、以下の3つのポイントをチェックしてみるといいと思います。
@自分たちの活動を客観的に見てみる。楽しそうですか?
→楽しいとはどんな状態ですか?「ふざける」と「楽しい」の違いは?
A顧問、部員の信頼関係はできていますか?「信頼」とはどんな意味ですか?
Bまわりに感謝していますか?
吹奏楽は大きな音がでるし、予算はかかるし…。音楽室、普通教室、備品がなかったら?
と考えてみてください。まわりから信頼されていますか?
僕の考える上手くなる3要素です。ぜひ折りに触れて振り返ってみてください。
― 部活動を通して、どんなことを身につけていってほしいと思いますか?
そうですね。たくさんありますが、主な6つを挙げてみます。
・自分を大切にすること
・嘘をつかないこと
・どこまでも求めること
・お互いを知ろうとすること
・人を好きになること
・すべてが音楽になることを知ること
自分を高めることが音楽を高めることにつながり、
音楽を大切にすることが、人を大切にすることであることを知ってほしいと思います。
― 吹奏楽を頑張る中・高生の皆さんにアドバイスをお願いします。
強く伝えたいことは、部活動はやるものではなく、やらせていただくものだ、ということです。
活動させていただくにあたり、いったいどれくらいの人にお世話になっているのかを考えてみてください。まず顧問の先生がいらっしゃらなかったら活動はできません。そして顧問以外の先生方が普通教室を貸してくださるからこそ、パート練習をすることができます。パーカッション楽器の殆どは学校備品だと思います、吹奏楽部がなければほかの部がたくさん予算をもらえますよね。さらに部員以外の人にとって、ロングトーンや基礎打ち、リップスラーの練習などは単なる雑音でしかありません。みんな我慢してくれているのです。そして誰よりも保護者の方々が理解してくださるからこそ、部活動が続けられるのだということを忘れないでください。
あと、どんどん困ってみたらいいと思います。音楽室以外の教室を使わないで練習してみてください。チューナーやハーモニーディレクターを使わないで練習してみてください。学校備品を使わずに練習してみてください。挨拶もしないで、掃除もしないで部活動をしてみてください。一度本当に困ってみたらいいと思います。見えなかったものが見えてくると思いますよ。2時間の練習が本当に精一杯できているのかを考えるために、旭商でも朝練習や居残り練習を禁止するときもあります。みなさんにもたくさん困って真剣に悩んで、本気で部活動に取り組んで欲しいと思います。
― 最後に指導者の皆さんへのアドバイスをお願いいたします。
今回DVDの発売という大変ありがたいお話をいただき、僕たちの活動の一部をご紹介させていただきました。ご覧になっていただいた方はお分かりかと思いますが、習志野高校さん、埼玉栄高校さん、東海第4高さん、市立船橋高校さんなど多くの学校さんからアイデアをいただいています。みなさんも私たちの活動のよいと思ってくださった部分を取り入れ、自分の学校事情に合わせてアレンジしてほしいと思います。
ただし、旭商のやり方が一番正しいなんて申し上げるつもりは、まったくございません。本質を忘れ形骸化していないか? 周りのみなさんへの感謝を忘れ思い上がっていないか? バンドは三歩進んで二歩、時には四歩さがる状態で、反省することもしばしばです。教師の音楽的指導力不足も痛感しております。現在は幸いなことに全国大会にも出させていただけるようになりましたが、現状に満足せず、生徒と共に歩んでいきたいと思います。ありがとうございました。
佐藤 淳(さとうじゅん)
徹底して生徒に考えさせる指導をモットーとし、器楽のほかにダンスや合唱、劇など、様々な活動を取り入れチームワークと表現力を磨く。ハンドベルや群読、ブラックライト劇などを取り入れたエンタテイメント性の高い定期演奏会は非常に人気が高く、日本全国から旭商ファンが集う。
1999、2007、2009〜2011年全日本吹奏楽コンクール出場(金賞2回、銀賞2回、銅賞1回)を果たすなど、近年目覚しい活躍を遂げている。