【はじめに】
Feedfoward とは予め目的とする運動に必要な運動指令(内部モデル)を脳内で計算しておく
ことで、feedback 情報を必要としない制御である。特にリーチングのような比較的速度の速い運
動はfeedfoward 制御が必要とされる。feedback 情報を処理して運動に変換した場合には速度を
維持することはできない。そのため内部モデルの不完全な片麻痺患者は、feedback 制御を選択す
ることで動作速度が低下し、関節の剛性を高める。そしてリーチングにおいて上肢を固定し、代
償として体幹部を使用する。そこに対して作業療法士が、いかにして上肢内部モデルを獲得し、
feedfoward 制御とするかが重要と考えている。そこで今回、道免が考案したfeedfoward 訓練を
応用し、feedback 制御が強い片麻痺患者に対しリーチ動作時の体幹部抑制を目的として、上肢操
作速度変化と座位単関節運動に着目してアプローチを行なったので報告する。
【症例紹介】
60 歳代男性、左内頚動脈閉塞による右片麻痺。梗塞巣は放線冠レベルで上縦束等の障害を認めた。
【上肢操作速度変化訓練時期:発症より5 ヶ月時の作業療法評価】
● Br.stage:上肢・手指Ⅳ〜Ⅴ●表在・深部感覚:中等度鈍麻●簡易上肢機能検査(以下STEF):
前方リーチでは右上肢を肩関節外転、肘関節屈曲、前腕中間位で固定。STEF 盤にかぶさる様に体
幹を屈曲し、肩関節屈曲を代償していた。得点は1 点、遂行項目は5 項目であった。●閉眼座位
での体性感覚による上肢誘導:誘導による前方リーチでは上肢操作に伴う体幹部の動揺はほとんど
なく、空間におけるプレーシングも可能であった。
【問題点の要約】
体性感覚によるFeedback 制御は、上肢・体幹の筋control は良好。しかし、視覚情報のみによ
る制御では体幹部の代償が出現。体性感覚情報ではなく、視覚情報によるFeedfoward 制御の速い
速度に対応した運動プログラムの欠如とした。
【上肢操作速度に対するアプローチ】
目標物(視覚情報)を設定し、リーチングを実施。その際にFeedback 制御とならないように体
制感覚を必要としない比較的速い運動を実施。それにより得られた結果(視覚情報)と予め予測し
た固有感覚の統合を図った。その際は‘ 素早く手を伸ばす’ ことを意識し、リーチング課題を2週
間実施した。体幹部の代償は言語・徒手的に抑制した。
【結果】
STEF では肩関節水平内転、肘関節伸展位での前方リーチみられ、体幹部の代償が抑制された。し
かし、手指の過剰筋緊張が出現し、STEF は1 点→ 0 点、遂行項目も5 → 2 項目と介入前より低下した。
【座位単関節運動時期】:リーチング時の体幹部の代償を抑制できたが、手指の過剰筋緊張により
STEF は低下した。
そこで動作レベルからのFeedfoward 制御ではなく、単関節毎のFeedfoward
制御の評価として上肢・体幹筋synergy の評価を行なった。
【座位単関節運動による上肢・体幹筋synergy の評価】:[ 肘伸展位での肩90° 屈曲]:肩関節屈曲
に伴い肘関節屈曲、前腕回外の共同運動がみられた。[ 肩屈曲90° での肘関節屈伸]:肘関節屈曲
に伴う頚部・体幹屈曲、肘関節伸展に伴う肩関節伸展・内転、体幹伸展がみられた。肘関節伸展は
スムーズでなく弾発的であった。[ 肩屈曲90° 肘伸展位での手指屈伸]:手指屈曲に伴う肘関節屈曲、
弾発的な手指伸展、口腔の共同運動がみられた。
【上肢・体幹筋synergy に対する座位単関節運動アプローチ】
評価を元に肘関節伸展位での肩屈曲。肘関節伸展での肩関節伸展・内転の抑制、手指屈曲での肘
関節屈曲の抑制などを6 日間実施した。
【結果】STEF では体幹屈曲は抑制され、手指の筋緊張は改善。STEF は0 点→ 2 点、遂行項目は
2 → 7 項目へ改善した。
【考察】
今回リーチング時Feedback 制御中心の患者に対して、Feedfoward 訓練を応用した2 つの訓練
を実施しすることで、体幹代償の抑制へ繋がった。これらにより片麻痺上肢Feedfoward 制御獲得
のためにも、体制感覚を必要としない速度での制御下における内部モデル獲得と座位での上肢・体
幹のSynergy の評価が重要であると考える。また現在、食事動作獲得に向けて直接的訓練と座位
単関節運動を併用して効果を検討しています。ご意見・アドバイス等頂ければ、幸いです。
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